日本政府観光局(JNTO)が発表した最新の調査資料に基づき、2026年上半期(1月〜6月)の訪日外客数の推移を総括します。
2026年上半期は、中国市場の構造的な減速が全体の数値を押し下げる一方、韓国・台湾をはじめとする東アジア市場の力強い成長、そしてインド・中東・メキシコといった新興市場の急拡大が重なり、訪日市場の「多極化」が一段と鮮明になった半年間でした。航空路線の拡充や円安の継続、第5次観光立国推進基本計画の策定など、構造的な追い風も市場を下支えしています。
本記事では上半期6カ月分の累計データをもとに、日本全体の動向から主要5市場、東南アジア・インド、欧米豪・中東まで幅広く整理し、下半期に向けたプロモーションのヒントとなるトレンドを読み解きます。
日本全体の訪日外国人入国者数推移:上半期累計2,108万人
2026年上半期(1月〜6月)の訪日外客数は累計21,084,800人(前年同期比2.0%減)となりました。前年同期の21,518,575人をわずかに下回ったものの、月平均351万人と高水準を維持しています。月別では4月の3,692,364人が単月最高で、2月・3月は各月として過去最高を更新しました。
上半期の動きを読み解くポイントは以下の3点です。
- 中国を除けば実質+12%の成長: 全体で前年同期比2.0%減となった最大の要因は、中国市場の前年同期比56.4%減(約266万人の減少)です。中国を除いた他市場の合計では前年同期を大きく上回っており、訪日需要そのものは拡大基調にあることがうかがえます。
- 韓国・台湾が上半期を牽引: 韓国は累計567.5万人(前年同期比18.6%増)、台湾は397.2万人(同20.9%増)と、いずれも2桁成長を記録しました。1月には韓国が全市場初の単月110万人超えを達成するなど、東アジア市場の底堅さが際立っています。
- 新興市場の急成長と送出国構造の変化: メキシコ(前年同期比29.2%増)、ロシア(同24.7%増)、インド(同22.9%増)など、従来は規模の小さかった市場が20%超の高成長を記録。訪日市場の送出国構造は確実に多極化しており、特定市場への依存度が低下しつつあります。
国・地域別の訪日外国人入国者数
2026年上半期は、中国の大幅減と韓国・台湾の堅調な成長、そして新興市場の台頭という三つの潮流が同時に進行しました。
上位主要国・地域の上半期累計は以下の通りです。
- 韓国:5,675,100人(前年同期比18.6%増)
- 台湾:3,972,200人(前年同期比20.9%増)
- 中国:2,058,200人(前年同期比56.4%減)
- 米国:1,821,700人(前年同期比7.1%増)
- 香港:1,298,500人(前年同期比2.2%増)
韓国
上半期の訪日外客数は累計5,675,100人(前年同期比18.6%増)。全6カ月で前年同月を上回り、1月には全市場で初めて単月110万人を突破しました。航空座席数の継続的な拡大と根強い訪日旅行人気を背景に、最大市場としての地位を一段と固めています。月別では冬季(1〜2月)の伸びが特に大きく、1月+21.6%、2月+28.2%と、オフシーズンにも分散した訪日需要が見られます。
台湾
上半期の訪日外客数は累計3,972,200人(前年同期比20.9%増)。全6カ月で2桁成長を維持し、2月には前年同月比36.7%増と突出した伸びを記録しました。リピーター率87%という高い再訪率に支えられ、桜シーズンだけでなく通年で安定した訪日需要が定着しています。韓国に次ぐ第2市場として、その存在感はさらに増しています。
中国
上半期の訪日外客数は累計2,058,200人(前年同期比56.4%減)。中国政府による日本への渡航注意喚起の継続と航空便の大幅な減便が主な要因です。前年上半期の約472万人から半減以上となり、かつての最大市場から第3位へと後退しました。ただし、月次では1月の60.7%減を底に、2月は45.2%減とやや改善の兆しも見られます。渡航注意喚起の解除時期が下半期の回復を左右する最大の変数となるでしょう。
米国
上半期の訪日外客数は累計1,821,700人(前年同期比7.1%増)。桜シーズンの3月に375,900人を記録し、スクールホリデーが始まる6月も354,500人と安定した需要が見られます。円安の継続と訪日旅行に関するSNS・メディア露出の増加が追い風となり、6月として過去最高を更新しました。平均泊数が12泊と長く、一人当たり支出も約34万円と高単価であることから、量と質の両面で重要市場であり続けています。
香港
上半期の訪日外客数は累計1,298,500人(前年同期比2.2%増)。月ごとの変動が大きく、1月は17.9%減、6月は28.5%増と振れ幅のある推移となりました。6月の大幅増は、端午節の期ずれ(前年5月末→今年6月中旬)と大学生の訪日需要増が重なった結果です。リピーター率91%と最も高い市場であり、新たな旅行先・体験の訴求が引き続き重要です。
東南アジア・インド市場の動向:インドが急成長、ASEANは底堅い
東南アジア・インド市場の上半期は、インドの急成長とASEAN各国の底堅い推移が特徴的でした。航空路線の新規就航・増便が訪日需要を押し上げる構図が鮮明になっています。
- フィリピン:474,300人(前年同期比5.8%増)
- ベトナム:396,500人(前年同期比8.7%増)
- インドネシア:379,700人(前年同期比13.0%増)
- シンガポール:378,700人(前年同期比9.7%増)
- マレーシア:371,400人(前年同期比14.6%増)
- タイ:704,600人(前年同期比3.5%増)
- インド:210,300人(前年同期比22.9%増)
インドは上半期累計で21万人を超え、前年同期比22.9%増と急速に存在感を高めています。2026年1月のデリー〜成田間新規就航、デリー〜羽田間・ムンバイ〜成田間の増便、さらにムンバイ〜羽田間の新規就航と、航空インフラの整備が需要拡大を直接牽引している好例です。5月・6月にはいずれも単月・6月として過去最高を記録しました。
マレーシア(前年同期比14.6%増)とインドネシア(同13.0%増)も2桁成長を達成。スクールホリデーに合わせた訪日パターンが定着しつつあり、特にマレーシアは5月に前年同月比39.6%増と突出した伸びを見せました。
一方、タイは前年同期比3.5%増と緩やかな成長にとどまっています。訪中旅行の継続的な人気が訪日需要と競合する構図が見られ、航空便の減便も影響しています。東南アジア最大の訪日市場であるだけに、今後の動向に注目が必要です。
欧米豪・中東市場の動向:幅広い市場で過去最高を更新
欧米豪・中東市場では、上半期を通じて多くの市場が堅調に推移しました。特にメキシコ、ロシア、北欧、中東といった市場の高成長が目立ちます。
- 豪州:593,300人(前年同期比4.6%増)
- カナダ:362,900人(前年同期比8.2%増)
- 英国:286,600人(前年同期比5.7%増)
- フランス:227,300人(前年同期比8.4%増)
- ドイツ:218,000人(前年同期比7.5%増)
- イタリア:135,200人(前年同期比0.6%減)
- スペイン:106,000人(前年同期比7.9%増)
- メキシコ:109,600人(前年同期比29.2%増)
- ロシア:104,400人(前年同期比24.7%増)
- 北欧地域:109,300人(前年同期比15.8%増)
- 中東地域:128,200人(前年同期比10.7%増)
メキシコは前年同期比29.2%増と全市場中で最も高い伸び率を記録しました。経由便の選択肢が広がったことに加え、若年層を中心に日本への関心が急速に高まっています。6月にはFIFAワールドカップ2026の自国開催による旅行控えがあったにもかかわらず、6月として過去最高を更新しており、訪日需要の強さがうかがえます。
ロシアも前年同期比24.7%増と力強い伸びを見せました。ウクライナ侵攻に伴う各国の制裁下にあるものの、経由便の多様化やクルーズ船の寄港が訪日機会を拡大しています。
北欧地域(前年同期比15.8%増)は、ヘルシンキ〜羽田間の期間増便や現地メディアでの訪日旅行報道の増加が追い風となりました。中東地域(同10.7%増)も、一部路線の運航再開・増便やスクールホリデーに合わせた需要が寄与しています。
欧州の主要市場ではフランス(+8.4%)、スペイン(+7.9%)、ドイツ(+7.5%)がいずれもプラス成長となりました。フランスやスペインでは若年層の訪日需要の高まりが報告されており、日本のポップカルチャーや食文化への関心が下支えとなっていることがうかがえます。唯一イタリアが前年同期比0.6%減となりましたが、ほぼ横ばいの水準です。
訪日外国人旅行消費額の動向
2026年上半期時点では、最新の消費額データとして2025年通年の年次報告書が公表されています。
2025年の訪日外国人旅行消費額は9兆4,549億円と推計され、2024年比で16.4%増となり、過去最高を更新しました。訪日客数の増加に加え、一人当たりの支出額が高水準で推移していることが、消費額全体の拡大につながっています。
国籍・地域別消費額
国籍・地域別では、中国が2兆58億円(構成比21.2%)で最も多く、台湾、韓国、米国、香港が続いています。中国は訪日客数では大幅減となったものの、一人当たり支出が約24.7万円と突出して高く、消費額の面では依然として最大市場の座を維持しています。
費目別消費額
費目別では、宿泊費が36.6%、買物代が27.0%、飲食費が21.9%の順となりました。宿泊費の構成比は増加傾向にあり、高付加価値な宿泊体験を選択する旅行者の増加が示唆されます。
一人当たり旅行支出
2025年の訪日外国人一人当たり旅行支出は22万9千円となりました。欧米豪市場では宿泊費や体験型消費への支出が高い一方、アジア圏では引き続き買物需要の比重が高い傾向が見られます。
まとめ
2026年上半期の訪日外客数は累計2,108万人(前年同期比2.0%減)となりました。韓国568万人(+18.6%)・台湾397万人(+20.9%)が牽引役となり、インド(+22.9%)・メキシコ(+29.2%)・ロシア(+24.7%)・北欧(+15.8%)など新興市場も20%前後の高成長を記録しています。15市場が6月として過去最高を更新するなど、訪日需要の裾野は着実に広がっています。
最大の構造変化は、中国市場の減速(前年同期比56.4%減、約267万人の減少)を他市場が補い、全体としてほぼ前年並みの水準を維持している点です。訪日市場は特定の巨大市場に依存するフェーズから、多様な市場が並行して成長する「多極化」のフェーズへと移行しています。下半期に向けては、航空路線の拡充が続くインド・東南アジアへの早期アプローチ、リードタイムの長い欧米市場への先行提案、そして中国市場の回復シナリオに備えた柔軟な施策設計が求められるでしょう。
出典一覧
日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年6月推計値)」(2026年7月15日発表)
日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計」
観光庁「訪日外国人消費動向調査(2025年年次報告書)」
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