コロナ禍からの急速な回復を経て、日本のインバウンド市場は「V字回復」のフェーズを終えつつあります。2025年の訪問者数は過去最高水準に達する見込みで、10月までの累計で約3,554万人を記録し、月次でも過去最高を更新し続けています(日本政府観光局・2025年10月統計)。
しかし、企業の皆様が今直面しているのは、「どうすればこの波を、一過性のブームで終わらせず、持続的な売上と利益に繋げられるか」という課題ではないでしょうか。
これまでのインバウンド戦略が「客数の回復」に焦点を当てていたとすれば、2026年以降は、「量」から「質」への転換が求められる時代となります。従来の東京・大阪・京都を結ぶ「ゴールデンルート」に頼った戦略や、団体客の待ちの姿勢では、多様化する旅行者のニーズに応えることはできません。
本記事では、観光庁などの公的なデータに基づき、この二大潮流が読者のビジネスにどのような影響を与えるかを解説します。そして、この変化をチャンスに変え、収益を最大化するための具体的な【3つの戦略】を、実践的なノウハウと共に提示します。
2026年インバウンド市場の二大潮流をデータで解説
2026年のインバウンド戦略を練る上で、無視できない二つの大きな市場の動きがあります。これらは、単なる観光客数の増加ではなく、旅行者一人ひとりの消費行動と訪問地の選択に深く関わる構造的な変化です。
政府は2030年までに訪日外国人旅行者数6,000万人、消費額15兆円という目標を掲げており、2026年以降も持続的な成長軌道を描くことが期待されています。
潮流 I:地方分散の加速 × 多頻度訪問者の増加
観光庁「インバウンド消費動向調査(2023年)」によると、訪日リピーター(2回目以上の訪問者)の割合は67.7%に達し、実数では約1,333万人を記録しています。これはコロナ禍前の2019年(61.9%)よりも上昇しており、日本への再訪意向の高さを示しています。
訪問回数別の行動パターン(観光庁統計より)
初回訪問:ゴールデンルート中心(東京・大阪・京都など主要都市への訪問率が60%超)
2~5回目:地方部への訪問率が増加し始める(例:中国からの旅行者の場合、福岡県への訪問率が初回5.0%→2~5回目8.2%→6回目以上19.9%)
6回目以上:訪問地が多様化し、全国に広がる傾向(北海道、沖縄、東北、九州など)
SNS・動画プラットフォームの普及により、地域の祭り、ローカルグルメ、工芸体験など、これまで知られてこなかった魅力が海外で発見されるケースが急増し、旅の目的地として選ばれるケースが増加しています。
この「地方分散」の波は、これまでインバウンドの恩恵を十分に受けられなかった地域にとって、大きなビジネスチャンスを意味します。しかし同時に、観光地ではない地方の魅力をいかに発掘し、ターゲット層に届く形で発信するかが課題となります。
潮流 II:富裕層を意識した「高付加価値旅行」へのシフト
観光庁の調査(2023年時点)によると、高付加価値旅行者(着地消費100万円以上の訪日外国人旅行者)は、訪日旅行者全体のわずか約2%(約59万人)に過ぎません。しかし、その消費額は全体の約19%(約1兆円)を占めており、一人当たりの経済効果は極めて高いことが分かります。
ただし現状では、この消費額の大半が大都市圏に集中しており、地方への波及効果は限定的です。つまり、地方における高付加価値旅行者の誘致は、未開拓の巨大市場と言えます。
高付加価値旅行者、特に欧米圏やアジア圏の富裕層は、単に高額な商品を購入するだけでなく、“唯一の体験価値”に支出します。彼らが求める体験価値は、下記のようなものが挙げられます。
・特別なアクセス:オフ時間の美術館・寺社見学、職人との直接交流、非公開エリアへの案内
・ウェルネス体験:自然リトリート、プライベート温泉、医療ツーリズム
・ストレスフリーな環境:スムーズな移動手段、多言語対応、多様な決済手段
・時間価値の最大化:手間のない予約システム、24時間対応のコンシェルジュサポート
・文化的深度:表層的な観光ではなく、地域の歴史・文化・産業への深い理解
今後のインバウンド市場で売上を最大化するには、体験設計・デジタル環境・サービス品質の三位一体の改善が不可欠です。
2026年の収益を最大化する「3つの戦略」
上記の潮流を捉え、持続的な成長軌道に乗せるための具体的な戦略を3つご紹介します。
戦略 1:地方の魅力を「デジタルコンテンツ」で発掘・体験設計する
地方の魅力を世界に伝えるには、写真や説明文だけでは不十分です。旅行者は「体験の深さ」や「その場の温度感」を求めており、意思決定の多くが SNS・動画プラットフォーム で行われています。
体験のパッケージ化とEC化
地域特有の文化体験(例:酒蔵の見学とテイスティング、伝統工芸品の制作体験、地元漁師との漁業体験)を、多言語対応の予約システムと連携させ、事前に購入できるデジタル商品として設計します。これにより、インバウンドの「コト消費」の売上を安定させます。
観光庁の統計によると、訪問回数が増えるほど「娯楽等サービス費」への支出も増加する傾向があり、6回目以上の訪問者では体験型消費が顕著に高まります。
ターゲット別SNS戦略
欧米圏には長尺のYouTube動画で背景にある文化を深く伝え、アジア圏にはInstagramやRED(小紅書)などで「映える」「今すぐ行きたい」と感じさせるマイクロコンテンツを配信します。ENGAWAの強みは、現地の文化を理解したマイクロインフルエンサーを活用し、地方の魅力を効果的に発掘・拡散する企画力にあります。
2023年時点で訪日旅行者の約7割がリピーターです。彼らは既に日本の基本的な魅力を知っており、次は「まだ見ぬ日本」を探しています。この潜在需要に応えるコンテンツ戦略が、地方への誘客の鍵となります。地方の”点の魅力”を、世界に届く”線のストーリー”へ変換することが鍵です。
戦略 2:高付加価値層に響く“パーソナライズ体験”を実現する
前述の通り、高付加価値旅行者はわずか2%ですが、消費額は全体の19%(約1兆円)に達します。この層へのアプローチは、単なる顧客数増加ではなく、一人当たりの消費額最大化という観点で極めて重要です。高付加価値旅行者は、サービスに対して「ストレスフリー」であることを強く求めます。コミュニケーションの不備や、決済時の手間は、彼らにとって旅行体験を大きく損なう要因となります。パーソナライズされた体験とは、単に個別の挨拶をすることではなく、彼らの行動を予測し、滞在をシームレスにすることです。
事前データ活用によるCX向上
予約時や過去の訪問データから、旅行者の国籍、宗教、好み(アレルギーやベジタリアンなど)を把握し、サービス提供前にスタッフ間で共有します。これを実現するため、顧客管理システム(CRM)や予約システムを多言語・多文化対応に改修するデジタル基盤の整備が急務です。
多角的な多言語対応の徹底
AI翻訳ツールだけに頼らず、専門的な内容や緊急時には多言語チャットサポートを導入し、迅速かつ正確なコミュニケーションを確保します。
決済手段のローカライズ
経済産業省の発表によると、2024年の日本のキャッシュレス決済比率は42.8%(141兆円)に達し、政府目標を1年前倒しで達成しました。しかし、訪日外国人旅行者の多くは、自国で主流の決済手段を日本でも使いたいと考えています。
・欧米圏:主要クレジットカード(Visa、Mastercard、American Express)
・中国:Alipay、WeChat Pay
・東南アジア:GrabPay、PayNow(シンガポール)、PromptPay(タイ)
・韓国:Naver Pay、Kakao Pay
決済の多様化は、高額な消費における機会損失を防ぐ上で非常に重要です。特に富裕層は予算制約が少ない分、決済の利便性が購買意思決定に直結します。

戦略 3:旅行前後の“リレーション構築”でLTV(顧客生涯価値)を高める
インバウンド戦略は、顧客が日本滞在中に消費を終えた時点で完結してはいけません。リピーター率67.7%という数字が示すように、日本は世界的に見ても再訪意向が極めて高い国です。旅行後の継続的な関係構築こそが、リピート訪問や、旅行後の越境ECを通じたLTV(顧客生涯価値)向上の鍵となります。
越境ECへのシームレスな誘導
顧客が日本滞在中に気に入った商品やサービスを、帰国後も継続して購入できる越境ECプラットフォームを整備します。店舗内のPOPやデジタル領収書に越境ECサイトのQRコードを配置し、購買意欲が高いうちに誘導する仕組みが効果的です。
観光庁の統計では、訪問回数が増えるほど「買物代」への支出も増加する傾向があります。これは、リピーターが「日本製品への信頼」を深めている証拠であり、越境ECの潜在市場は非常に大きいと言えます。
現地SNSを通じた情報発信の継続
顧客の母国語で、日本の文化や商品のストーリーを、継続的に発信します。特に、中華圏ではRED(小紅書)やWeChat、欧米圏ではInstagramやFacebookなどが主要なチャネルです。これにより、「また日本に行きたい」「日本製品を試したい」という潜在的なリピート需要を刺激し続けます。
顧客の声の収集と活用
帰国後のアンケートやSNS上のコメントを多言語で収集・分析し、サービスの改善や次期商品の開発に活かします。一方通行ではなく、顧客と共に価値を創る姿勢が、信頼性を高めます。

まとめ:2026年をチャンスに変えるために
2026年のインバウンド市場は、量の回復から”価値の創造”へ向かう年です。この成長の果実を得るには、「地方分散」と「高付加価値化」という二大潮流を戦略的に捉え、実行することが不可欠です。
本日ご紹介した3つの戦略の要点
- 地方の魅力をデジタルコンテンツで設計し、リピーター率67.7%という日本の強みを活かし、「まだ見ぬ日本」を求める旅行者を地方へ誘導する。
- 高付加価値層に対し、パーソナライズされたストレスフリーな接客(多言語・多決済対応)を提供する。わずか2%の旅行者が生み出す19%(約1兆円)の消費を獲得する。
- 旅行前後のリレーションを構築し、越境ECや継続的なSNS発信を通じてLTVを最大化する。6回目以上の超ロイヤル顧客を育成する。
これらの戦略はいずれも、「デジタル技術」と「現地の文化理解」が基盤となります。
ENGAWA株式会社は、多国籍なネットワークと、Webサービス開発で培った高度なデジタル技術を融合させ、御社のインバウンド戦略を「認知度向上」から「持続的な売上向上」へと導きます。
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