近年、都心部への人口流入と地方地域の過疎化、コロナウイルスの流行による新たな生活様式の登場を背景に、都心から地方地域への移住を検討する人が増加するようになりました。
では、実際に移住をした人はどれ位いるのでしょうか?
この記事では、移住人口の動向を振り返るとともに、ニーズがどこにあるのか、断念する障壁は何か、具体的な地方自治体の移住促進施策などについて解説します。
この記事でわかること
- 近年の日本全国における移住人口の動向
- 移住におけるニーズと断念に至ってしまう障壁や課題
- 地方自治体における具体的な移住促進施策
こんな方におすすめ
- 移住を検討しているものの自分のニーズを満たせるか分からずにいる人
- 移住を具体的に検討するにあたって事前にクリア可能な障壁を把握したい人
- 日本の地方自治体の具体的な移住促進施策について知りたい人
移住人口の動向
新型コロナウイルスの流行を機に、人々の生活や仕事の在り方は大きく変わりました。
当時のニュースでは、そのような変化から働く場を変えたり、移住を実践した人も多いと報道されていました。例えば、観光地や地方地域でオンライン環境を活用したリモートワークに取り組む人、都心から地方地域へと移住する人が挙げられます。
ですが、ニュースに取り上げられていたケースはほんの一例であり、全国的な統計として、移住人口の動向すべてを表しているとは言い切れません。ここでは、これまでの日本における移住人口の動向について解説します。
年別の移住人口
総務省統計局から公表されている「住民基本台帳人口移動報告」によると、近年の市区町村間での移動者数は約530万人を基準に推移しています。
そして、そのうち同一の都道府県内を移動しているケースと、別の都道府県へと移動しているケースはそれぞれ半数ほどです。
下表を見ると、2020年以降の都道府県間移動者数の推移がやや右肩上がりとなっていることが分かります。コロナウイルスによる生活様態の変化から、移住に対する注目が高まっていたことの影響が出ていると考えられます。
地域別の移住人口
2020~2022年における地域別の移住人口データを見ると、3大都市のある都府県や、関東圏の都県への転入が多いことが分かります。
特に、2021年における東京都への転入者の数が少ないことが挙げられます。コロナウイルスに対する厳重策が講じられていたことの影響だといえるでしょう。
年齢別の移住人口
年齢別に見た場合、20代前半から30代後半までの生産年齢にあてはまる年齢層での移住者(移動者)が多いことが分かります。
上記の傾向は2022年に限ったものではなく、継続的に続いているものです。就職や転勤等による移動が背景にあると考えられます。
そもそも移住のニーズとは
特に近年の日本で注目を集めているのは、都心部から都心以外の地域への移住です。ここでは、移住に対するニーズに関して詳しく解説します。
豊富な自然
都心を離れ、都心以外の地域への移住を検討する方の多くが、「自然を身近に感じたい」、「自然が身近な生活をしたい」といった、自然との関わりを移住の理由に挙げています。
都心の中にも自然を感じられる場所はありますが、地方部の自然の方が雄大であり、普段の生活のさまざまな場面で自然を感じる瞬間が多くあるでしょう。
自然と関わることの魅力には、以下のようなものが挙げられます。
① 自然の美しさと心身への癒し
都心で暮らすとなると、高層ビルや交通渋滞に囲まれた忙しい日々を送っている方が多いのではないでしょうか?
一方、都心以外の地域での暮らしだと、そんな喧騒から解放されるようになります。緑豊かな景色や四季折々の自然の彩りに包まれる暮らしは、心身の癒しとなるでしょう。
② アウトドアアクティビティの多様性
地方都市では、多様なアウトドアアクティビティが楽しめるのも魅力の1つです。
「美しいハイキングコースやサイクリングルートで自然を満喫したり、湖や海で釣りやカヌーを楽しむ」ワクワク感を覚える人も多いでしょう。
また、上記のようなアクティビティを通じて、これまでの生活では想像できなかった人との出会いに期待を抱く移住者も多いです。
より大きな家でゆっくり暮らせる
都心と都心以外の地域における不動産価格を比較した場合、後者の方が圧倒的に安価であり、同程度の価格(家賃)であっても、広い敷地・大きな家を手にしやすいです。
実際に移住をした人の多くが、都心を離れ大きな家を手にすることで、以下に挙げる素敵な暮らしを実現しています。
① 暮らしにゆとりがある
家や敷地などが大きい場合、暮らしの中で新たな空間が必要となった際にスペースを用意しやすいという特徴があります。
例えば、家族の成長に合わせたスペースの拡張や新たなスペースの設置が挙げられます。また、趣味などのためのスペースが欲しいとなった場合、都心の住居よりも設置を前向きに検討しやすいでしょう。
日々の生活に密接に関わっている空間そのものにゆとりがあることで、暮らしそのものも柔軟でゆとりのあるものになります。
② 自分らしい暮らしにカスタマイズできる
都心では限られたスペースでの暮らしを強いられることが多いですが、地方では広々とした家を持つことで、自分らしい暮らしをカスタマイズできます。
趣味の部屋や仕事のスペースを設けることで、自分のライフスタイルに合わせた快適な空間を作り上げることができるのは大変魅力的でしょう。
地方地域では空き家問題が顕著であり、自主改修を条件として価格を抑えている物件も多いため、DIY等に挑戦するケースも見られます。
このような形で日々の暮らしを充実させた移住者は非常に多いです。
新鮮な食べ物を食べることができる
流通網の発達によって、都心にも日本全国から新鮮な食材が輸送されてきていますが、各地域の名産物の本当の美味しさは現地でこそ輝きます。
輸送を介さない分、あらゆる食べ物の鮮度も地元で食べることに勝るものはありません。地方地域への移住を食の観点から見た場合の魅力は、以下のものが挙げられます。
① 地元産の新鮮な食材を手軽に購入できる
地方都市では、農村地帯に近接しているため、新鮮な野菜や果物、肉や魚など地元産の食材を手に入れやすいです。
農家直売所や地域の市場で仕入れることで、旬の食材の恵みを存分に味わうこともできるでしょう。
② 地域独自の食文化に触れられる
暮らす場所を変えることで、今まで知ることのなかった地域独自の食文化に触れる機会がきっと訪れるでしょう。
伝統的な郷土料理や地元の名物料理、地域で受け継がれるレシピに触れることで、新たな味覚の発見があります。
地元の食堂やレストランで地域の味を堪能し、食の多様性に触れることで食への興味と楽しみが広がるでしょう。
③ 安心・安全な食べ物を手軽に購入できる
地方で生産される食材は通常、短い距離で輸送されるため、新鮮さや品質が保たれやすい特徴があります。
また、地域社会が密接に関わっていることから、食の安全性への意識が高く、農薬や添加物を極力使わない自然本来の栽培に挑戦している農家も非常に多いです。
地方都市の農産業では上記の取り組みが盛んなため、安心して食べ物を楽しむことができます。
移住における障壁とは
先述のように、地方地域への移住には多様な魅力があるため、一定のニーズが存在しています。ですが、移住の統計的データを鑑みるに、実際に移住に踏み切った人が顕著に増えているとは言い難いのも事実です。
そして、その背景には移住に踏み切るのを留まらせる障壁が存在していることが考えられます。ここでは、そんな移住における障壁について解説していきます。
移住先に仕事がない
移住を踏み切るにあたっては、移住後にも安定した生計を立てられるような働き口があるか否かが大きな判断材料となるはずです。ですが、実態としては働き口が十分にないというのが実情であり、結局は地方地域への移住を断念したという人も多くいます。
地方地域への移住と仕事には以下のような問題が残っているといわれています。
① 職種の多様性が乏しく給与水準も低い
地方地域は都心部と比較すると、産業の多様性や企業数が限られています。
特に、専門職や高度なスキルを要求される職種は少ないため、それに適した仕事を見つけることが難しいことがあります。
また、地域の経済力が低いため、給与水準も都心部に比べて低くなる傾向があり、安定的な生計を確立できないと不安視する結果、移住を踏みとどまる人も多いです。
② 仕事に関する情報が入手しづらい
地方地域では、都心部と比べて求人情報やキャリアアドバイスの情報を得る手段が限られているケースが多いです。
地方都市の求人市場は特定の業界に偏っていたり、インターネット上での求人情報が不十分だったりすることがあります。これにより、仕事探しにおいて制約を感じることがあるでしょう。
③ 交通の便の確保が条件となるケースも多い
地方都市は都心部ほど交通の便が良くないことが多いです。
車を持たずに移住した場合、通勤や仕事に関して制約を受けることがあります。また、交通社会であることが一般的であるため、車両の所持が雇用の条件となっているケースもあります。
公共交通機関の利用が難しかったり、通勤時間が長くなることで、仕事に対するモチベーションや効率に影響を及ぼすことも考えられます。
移住先に知り合いがいない
新たな環境に飛び込むことに楽しさを感じる移住者がいる一方で、移住を検討する段階で「気軽に相談できるような知り合いがいれば」と考える人もいます。
結果的に、移住先に知り合いがいないことを理由に断念してしまうケースも多いです。この他、移住の際のコミュニティへの参加には以下の点が問題視されています。
① 孤立感を抱えた状態での新たな環境への適応が求められる
移住先に知り合いがいない場合、初めのうちは孤立感を感じる機会が多くなってしまうでしょう。
そのような孤立感を抱えながら、同時に慣れない土地や文化への適応が求められるため、最初の数週間から数ヶ月は特に心身のストレスを感じてしまう移住者がいます。
② 地域ならではのネットワークへアクセスすることが難しい
地方地域では社会的なネットワークが密接に結びついています。
地元の人々は長年に亘るつながりを築いており、外部からの新しい人間関係を築くことに懐疑的な姿勢の人もいます。
すべての地域住民が上記のような人物というわけではありませんが、地域のコミュニティに馴染もうと考えた場合には障壁になってしまうといえるでしょう。
③ 必要な支援体制が欠如してしまうことも
移住先に知り合いがいない場合、困ったときに頼れる身近なサポートが不足することがあります。病気や急なトラブル、緊急時のサポートなど、身近な人々の支援を受けることが難しい場合も考えられます。
移住先の生活での利便性
移住における障壁として、移住先の環境として利便性が十分でないことが挙げられます。これを理由に移住を断念する人もいます。
都心を離れた場合の生活における利便性が欠如しやすいシーンは以下のものが挙げられます。
① 公共交通機関が乏しい/自家用車が必須なケースも
地方地域では、都心部ほどの密度の高い公共交通機関が提供されていないケースがほとんどです。バスや電車の本数が少ないため、移動に時間がかかる場合もあります。
特に車を所有しない場合は、公共交通機関のアクセス性を考慮する必要があるといえます。
② 医療・教育機関の水準が低い場合がある
地方都市の利便性を検討する要素として、医療機関や教育機関の充実度を挙げる人は非常に多いです。
移住の場合、老後まで暮らし続ける可能性があるため、事前に医療アクセスの充実度をチェックしておくことは自然なことです。
また、お子さんを持つご家庭の場合には、子供が安心して成長していける環境があるかどうかも重要となります。
地方地域では人口減にともなって十分な水準を維持することが難しくなっているケースもあるため、結果的に移住を躊躇してしまう人が現れてしまうのです。
各自治体の移住促進施策事例5選
最後に、全国の自治体で実施されている移住促進施策の事例を5つ紹介します。
事例①:福井県鯖江市
メガネの生産地として有名な鯖江市。メガネに関する産業が盛んなことはもちろん、メガネにまつわる観光名所の整備も行われており、観光地としても注目を集めています。
そして、移住促進施策には「さばえ移住応援プラン」と称して、ふるさと納税を通じて移住者に特典を提供する施策が実施されています。
プラン内容として、移住者向けに住宅購入補助や地域の特産品の提供、地域イベントへの招待などが盛り込まれています。
事例②:新潟県粟島浦村
新潟県北部の日本海に浮かぶ粟島を形成する唯一の自治体であり、離島への旅行を目的に浦村を訪れる観光客も非常に多いです。
粟島浦村の移住促進施策では子育て世帯向けの助成金制度が設けられています。妊産婦の医療費助成から出産祝金、乳幼児育児用品購入費助成、新潟県奨学金と子供の成長に関わるすべてのタイミングで助成金の支給が行われています。
また、粟島ならではの取り組みとして「しおかぜ留学」という取り組みも行われています。移住にあたって子供の入学・転校が必要となるケースも考えられますが、子ども自身にも適した環境かを体験的に知ることができるようになっています。
事例③:大分県豊後高田市
豊後高田市は、「住みたい田舎ベストランキング」1回から5回までベスト3に入り続けた唯一の自治体であり、先進的な取り組みも積極的です。
「教育のまちづくり」を移住促進に関わらず掲げ続けてきたことで関連事業の枠組みもしっかりと整備されており、子持ち世帯にとって嬉しい支援施策が充実しています。
定住支援施策は、さまざまな場面やケースに対応できるように135項目にものぼります。
事例④:青森県弘前市
青森県はリンゴの生産量日本一を誇りますが、弘前市はその中でも主要なリンゴ生産地であり、「弘前リンゴ」は全国的にも有名です。
そして弘前市では、移住促進施策として「移住お試しハウス」と称した、一定期間生活体験ができる場の提供が行われています。
滞在中の移住相談も実施されており、実体験を経ることで移住の検討も行いやすくなるでしょう。
事例⑤:島根県浜田市
島根県西部の中核都市としての機能を担い、石見神楽や石州半紙といった伝統文化が根付く浜田市。中核都市として教育文化施設が充実している点も特徴です。
浜田市の移住専用サイトでは、移住までのステップと称して、移住の具体的な検討前から丁寧な支援(定住相談員への相談案内、浜田市への訪問支援など)を受けるための情報提供が行われています。
まとめ
コロナを契機に、これまでとは異なる働き方・暮らし方を実現する人が増えつつあります。
弊社メディア『複住スタイル』では、地方移住・多拠点移住・ワーケーションを目指す人々を後押しするため、移住に関わるあらゆる情報や日本各地の自治体最新情報、移住実績者の声などをお届けしております。
移住促進や関係人口創出についてご検討の際には、ぜひ弊社までご相談くださいませ。